レコードはCDより音が良い。これは少なくとも聴感上、体感上は多くの人が認めるところでしょう。土鍋でたいたご飯は電気炊飯器のご飯よりおいしい。これはもっと多くの人が賛成してくれるところです。井戸水は、水道水よりうまい。これはほとんどの場合そうです。では、なぜ巷にはレコードや土鍋や井戸水が氾濫していないのでしょう。なぜならいずれの場合も後者は便利だからです。そう考えると、僕らの社会では便利さのために質が犠牲になっているケースが多いことに気づきます。そこで便利さを手に入れることによって次の段階にすすめるからです。音楽をつくっていると、こういう状況にはよく出会います。本物のミニムーグでつくったベースは、どんなシンセよりファットでおそるべき存在感ですが、いちいちチューニングを微調整しながらレコーディングすることによって失われる時間はかなり問題です。プラグインソフトでシミュレーションしたムーグはしょせんソフトウェアでしかなく、本物には遠くおよばないのですが、それを使うことで別の実験をする余裕が生まれます。質にこだわるより、新しいことに挑戦することの方が進化という点では重要だと僕は考えます。だからDJはCDJとDVDJを使うべきだと思うのです。